
三谷文楽『人形ぎらい』を、京都駅直結の京都劇場で観てきました。主役は、文楽人形。役を演じている人形自身のお話です。笑って笑って、泣いて、やっぱり最後は笑って。やはり今日も最高でした。
『人形ぎらい』ってどんな作品?
「三谷文楽」は、三谷幸喜さんが文楽に挑むプロジェクト。2012年の『其礼成心中』から13年ぶりの新作として、2025年に初演されたのが『人形ぎらい』です。モリエールの『人間嫌い』をモチーフに、憎まれ役専門のかしら・陀羅助(だらすけ)が主人公。劇中劇として近松門左衛門の『鑓の権三重帷子』が上演されているのですが、憎まれ役ばかり演じさせられることに陀羅助の不満が爆発して・・・という物語。


文楽の人形が「役を演じる道具」ではなく、人間の俳優さんみたいにいろんな役を演じるイチ俳優として描かれている。古典文楽ではまず出会わない視点で、もう設定がピカイチに面白い。

床がない?!京都劇場ならではの舞台

開演前、いつもの床が見当たりません。「太夫さんと三味線さんはどこで演奏するのかなぁ」と思っていると、人形が出入りする小幕の上に登場されました。通常の文楽劇場では御簾内があるあたりです。しかも、上手側と下手側の両方に出てこられます!大好きな千歳太夫さんは上手側でした(わたしのお席も上手寄り。最高かよ)。
ちなみに通常の床の時には、舞台上の人形の動きを太夫さんが確認する場合、チラリと横目で見られているのですが、今回は身を乗り出して舞台上を確認するという配置。
舞台上の人形の動きを確認するために身を乗り出して覗き込まれる太夫さんたちを拝見していると、太夫・三味線・人形遣いの三業が、お互いを信頼して舞台をつくっていることが見えてきてぐっときます。ここでは人形さんは太夫さんに身を委ねることになると思いますし・・・
「ルッキズム!」
スケボー、新幹線、通天閣にUSJ。現代ワード満載です。
劇中劇の凄みからの普段言葉による義太夫節、いつもは絶対に使われないようなお言葉の数々を、あの義太夫節で聞けるなんて・・・舞台冒頭から心は鷲掴み。なかでも、切場語りの竹本千歳太夫さんが語る「ルッキズム!」には、チャーミングすぎてしびれました。
その世界(文楽)の常識に対して非常識を盛り込むことでおかしみを生み出す、笑いの原点ですね・・・まんまとはめられたー(笑)
置き去りにされた人形と、戻ってきた人形遣いさん
(※ここから物語終盤の内容に触れます。)
終盤、自暴自棄になった人形が「もうこのままここに置いていってくれ」と人形遣いさんたちにお願いする場面があります。
人形遣いさんの手が離れた瞬間、本当に魂が抜けてしまったように見えるのです。舞台に残された人形を見ていると、「お願い、置いていかないで!」と涙があふれます。
そして、人形遣いさんたちが戻ってきて、その手が人形に触れた瞬間。ふっと魂が戻ったのがわかりました。今度はうれしくて泣きました。
人形にとって人形遣いさんは魂をこめてくれる人たち、人形遣いさんにとって人形は命を吹き込む大切な相棒。切っても切れないんだなぁ。このシーンは思い出しただけでも泣けてくる・・・
千歳太夫さん、そしてアンコール
千歳太夫さんは、語りの際の表情もお声も、すべてが素敵です。出ておられるとついつい人形じゃなくてご本人を眺めてしまう・・・(まぁだいたいいつものこと)。

カーテンコールでは人形遣いさん、三味線さん、太夫さんが並んでご挨拶。アンコールが何度もあって、最後にはみんな手を振ってくださって、いつもとは違う皆様のご様子に眼福でした。特にお手振り千歳太夫さんのチャーミングさときたら。すばらしい舞台をありがとうございます!
かしらで探す楽しみ
この舞台を観たあと、試してみたくなったことがあります。かしらの出演歴を調べることです。
国立劇場の文化デジタルライブラリーには、かしらから公演記録を調べられる「かしらで探す」ページがあります。あのかしらが、これまでどんな役を演じてきたのかたどれてしまう。これがなかなか面白いんです。
かしらで探す→ 文化デジタルライブラリー「かしらで探す」
まとめ

パンフレットを開いてすぐ、この一文が
「わしらは時を超えて生き続けるんや、お客さんがいる限り。」
人形は、人形遣いさん・太夫さん・三味線さんが技と伝統を受け継ぐことで、人間よりずっとずっと長く、時を超えて演じ続けていく。これから文楽を観る時、かしらの見え方が変わるなあと思いました。
かしらを人格のある一人の役者として見てみると・・・深雪も、お初も、同じ”娘”のかしら・・・娘、いろんなお役やってんだな!ってなるかも。いやすでにそうなってる。
「時を超えて生き続ける」という言葉から、ふと思い出したものがあります。熊本城の復興です。
受け継がれた技と現代の工法で、過去の築城者への敬意を込めながら、元の姿を取り戻していく。お城も人形も、受け継ぐ人と見守る人がいる限り、時を超えて生き続けるんだなぁ。これからもしっかり見続けます!
現代劇のとっつきやすさがありながら、太夫・三味線・人形遣いの三業が重なって生まれる文楽の面白さも、しっかり味わえる舞台でした。こういう作品を入口にして、そこから古典文楽へ進むのもよいと思います。
三谷文楽、また観たい。年に4回とは言いません。年に2回とも言いません。年に1回でいいのでお願いします。
もう一回観たいよー。
