吉例顔見世興行 昼の部(2025年12月)

まねきの上がった南座 歌舞伎
まねきの上がった南座
まねきの上がった南座

仁左衛門さんの俊寛。たったひとり島に取り残されるあの心情の揺れを、大きな動きではなく、ふとした仕草や表情、声色だけで描ききっていく。ぐうの音も出ないとはこのこと。さすがすぎて、ただただ見入った昼の部、やはり今日も最高でした。

顔見世ってなに?

毎年12月、京都・南座で行われる「吉例顔見世興行(きちれいかおみせこうぎょう)」は、東西の歌舞伎役者が一堂に会する、京の師走の一大行事です。江戸時代、劇場と役者は一年契約で、毎年11月に新しい顔ぶれをお披露目していたのが始まりなのだとか。いまも京都の人にとっては、年の瀬を告げる風物詩ですよね。

南座の口上看板
南座の口上看板

劇場正面に、役者さんの名前を勘亭流(かんていりゅう・太く丸みのある独特のあの書体)で書いた「まねき」という木の看板がずらりと上がると、街がぐっと華やぐ。まねきが並び、赤い大提灯が下がり、やがて「本日初日」の貼り紙が出る——南座がだんだん顔見世の顔になっていく様子を眺めるのも、この時期ならではの楽しみ。

今年は八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助の襲名披露。松竹創業130周年の節目も重なって、お祝いムード満点。

南座ならではといえば、ロビーの「竹馬(たけうま)」。ひいき筋から役者さんに贈られるお祝いの飾りで、これは南座の顔見世でしか見られないのだそう。誰がどの役者さんを推しているのかがわかるのもおもしろい。京都の料理屋さんの名前もちらほらあって、土地柄を感じます。
お名前を見ているだけでお腹が空く。

ロビーに並ぶ竹馬
ロビーに並ぶ竹馬

そして客席に入って目を奪われたのが、舞台にかかった祝幕(いわいまく)。青い山並みに、黄色と赤のまるっこい生きもの。なんだろうこれ?と思って見ていたら「獅子」でした。今回の襲名のために新しくつくられたもので、フランスの老舗MOYNATとの協業、グラフィックデザイナーの永井一正さんが原画を手がけた一幕。6月の歌舞伎座で上演された『連獅子』の親獅子と仔獅子がモチーフなのだそうです。ポップでかわいくて、開演前からいい気分。

MOYNATの祝幕
MOYNATの祝幕

下手の桟敷から

今回のお席は、下手側の桟敷席。一段高くなった、あの座敷のようなお席です。ちょっと特別な気分になりますよね〜。昼の部は、京都を舞台にした華やかな舞踊『醍醐の花見』に始まり、阿呆を装う公家の本心が見える『一條大蔵譚』、襲名披露狂言の『玉兎』と『鷺娘』、そして『平家女護島』の「俊寛」という構成で、見ごたえたっぷりの並びでした。

イヤホンガイドももちろん今回も借りました。あらすじや背景をその場でそっと教えてくれるので、初心者にはやっぱり心強い。いつもどおり、とても分かりやすかったです。

イヤホンガイド
イヤホンガイド

俊寛、ぐうの音も出ない

そして、いちばんは「俊寛」。

絶海の孤島に流された俊寛が、都へ帰れると喜んだのも束の間、赦免状に自分の名前だけがない——というあのお話です。仁左衛門さんの俊寛が、本当にすごかった。

見せ場は派手な立廻りでも大見得でもなく、心の揺れそのもの。帰れるかもしれないという希望、それが裏切られたときの絶望、それでも仲間を送り出そうとする想い。そういう移ろいが、ふとした仕草や表情、声色だけで、こちらにまっすぐ伝わってきます。人の心情を、あんなにも繊細に立ち上げられるものなのか。さすがすぎて、ぐうの音も出ませんでした。

断崖に立つ幕切れの姿は、しばらく頭から離れませんでした。これを観られただけで、京都まで来た甲斐があったというもの。

幕間ダッシュ、にしんそば

ここでひとつ、おひとり様らしい武勇伝を。

南座のすぐお隣に、にしんそば発祥のお店「松葉(まつば)」さんがあります。文久元年創業以来160年以上続く超老舗。「幕間のお食事承ります」という貼り紙もあるくらい、観劇とセットのお店なんですよね。

ところがわたし、大胆にも予約はしていなかったのですが、えいっと幕間にダッシュ。短い幕間のあいだに、滑り込みで席に着き、運ばれてきたにしんそばを大急ぎでいただきました(笑)
甘辛く炊いたにしんと、あっさりした京都らしいお出汁。あわてて食べたのに、ちゃんとおいしかった。

松葉のにしんそば
松葉のにしんそば

幕が上がるまでに戻れるか、内心ドキドキでしたが、無事に間に合いました。お隣さまさまです。ちなみにお手洗いには行けませんでした(笑)

まとめ

襲名の節目を、初代菊五郎ゆかりの京都・南座で観られた、特別な昼の部。顔見世らしい華やぎ、桟敷からのんびり、そして何より仁左衛門さんの俊寛。ひとつひとつが心に残っています。

この日の南座
この日の南座

竹馬を眺めて、祝幕にときめいて、幕間にそばを駆け込んで——おひとり様だからこそ、全部を自分のペースで味わいつくせた一日。満足なり。

吉例顔見世興行 昼の部 公演情報
公演名松竹創業百三十周年 京の年中行事 當る午歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎(八代目尾上菊五郎・六代目尾上菊之助襲名披露)
公演期間2025年12月1日(月)〜25日(木) ※休演日:12月9日(火)・17日(水)
劇場南座(京都・四条大橋東詰)
開演時間昼の部 午前10時30分 / 夜の部 午後4時30分
昼の部醍醐の花見 / 一條大蔵譚 / 玉兎・鷺娘 / 平家女護島(俊寛)
俊寛片岡仁左衛門(Program A) / 中村勘九郎(Program B)。12月10日はProgram A。
チケットチケットWEB松竹
ひとり観劇メモ桟敷席はひとりでもゆったり過ごせて特別感たっぷり。幕間に劇場の外で食事をするなら、お隣の松葉さんは予約しておくと安心です。

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