
揚げ幕の向こうから、かすかに音が聞こえてきてぞくっとした。今回は同じ花道沿いでも、揚げ幕に近いお席。仁左衛門さんの『沼津』を楽しみに、昼夜通しで歌舞伎座へ。やはり今日も最高でした。
昼の部の記事はこちら → 秀山祭九月大歌舞伎 昼の部(2026年9月)
秀山祭ってなに?
毎年9月に歌舞伎座で行われる「秀山祭(しゅうざんさい)」は、明治から昭和にかけて活躍した初世中村吉右衛門の功績をたたえる興行です。「秀山」は初世吉右衛門の俳名(はいみょう:俳句を詠むときの名前)なんだそう。今年で20年目、初世吉右衛門の生誕140年にもあたる節目の年でした。
夜の部は『雛鶴三番叟』『伊賀越道中双六 沼津』『銘作左小刀 京人形』『一條大蔵譚 奥殿』の4本立て。『沼津』の呉服屋十兵衛は日によって仁左衛門さんと幸四郎さんのWキャストで、わたしが観たのは仁左衛門さんの回でした。
イヤホンガイドは事前にオンラインで手配。受け取りがスムーズで、これは一度やると戻れません。すごく便利なのです!
昼夜通しの特権、誰もいない客席
この日は昼の部から続けて観劇。昼夜の合間は2階のロビーで、自販機で買ったコーヒーを飲みながら夜の部のもぎりを待ちます。


どうしても観客ゼロの劇場内を撮影したくて、開場の10分ほど前からそわそわと徘徊して、扉のそばで待機。開いた瞬間にインして、誰もいない客席をパチリ。富士山の緞帳、がらんとした桟敷、まっすぐ伸びる花道。この静かな景色を眺められるのは、昼夜通しで行った人だけの特権だと思っています。そわそわしすぎて、ちょっと怪しい人だったかもしれない(笑)今度は3階席からの眺めも撮ってみたい!


揚げ幕のすぐそば、いつもと違う花道沿い
今回のお席も花道沿い。ただ、いつものお席(前方)ではなく、揚げ幕(花道の突き当たりにある幕)に近い後ろ寄りです。同じ花道沿いでも、こんなに景色が違うのかと新鮮でした。仁左衛門さんがご出演ということでチケットが少なくてお席を選べなかったのですが、この席も良くて結果オーライ!

いちばんぞくっとしたのは、揚げ幕の向こう側の音が聞こえる瞬間。役者さんが出を待っている気配が幕越しに伝わってくるようで、テンションが上がりました。

『京人形』の前の幕間には、花道に檜の板が敷かれていく様子も見えました。「所作台(しょさだい)」といって、舞踊の演目のときに舞台と花道に敷く台で、足拍子の音をよく響かせるためのものなんだそう。

見ていて思ったのは、これって長い幕間じゃないと敷けないし、外せないってことですよね?ということは「舞踊の演目は幕間に挟まれた位置に置く」みたいな制約が、番組の組み方に効いているのかも・・・?調べてもそこまでは出てこなかったので想像ですが、花道沿いだからこそ見えた舞台裏でした。
夜の部の演目



『雛鶴三番叟』は魁春さん、萬壽さん、雀右衛門さんによる、天下泰平を願うおめでたい舞踊。ここから夜の部が始まります。
伊賀越道中双六「沼津」

お目当ての仁左衛門さんの十兵衛。とにかく若々しくて、驚くばかり。80代とは思えない立ち居振る舞いと姿勢とスタイル。完璧すぎる。
途中で、頬に光るものが見えて。汗なのか、涙なのか・・・きっと本当の涙だったと思う。オペラグラスから目が外せませんでした。
そして幕切れの大向こう(客席からかかる「松嶋屋!」などの掛け声)がすごかった。感動するほどでした。仁左衛門さんの沼津、また観たいなあ。
幸四郎さんの十兵衛は、前にこんぴら歌舞伎で観ています。あちらも素晴らしかったのだけど、仁左衛門さんの上方の味わいはまた違う良さがあって、どちらも好き。
銘作左小刀「京人形」
時蔵さんの京人形の精。やっぱり時蔵さんが大好きだと再確認した30分でした。
出てきてからずっとオペラグラスで追っていたのですが、時蔵さん、まったく瞬きをしない。人形なので当然といえば当然なんだけど、そんなことできるの?と、別の意味で目が離せませんでした。松緑さんの甚五郎との掛け合いも楽しくて、この日いちばん笑った演目でした。
一條大蔵譚「奥殿」
去年の南座の顔見世で幸四郎さんの大蔵卿を観たときは、「檜垣(ひがき)」の場で大蔵卿がわざとお馬鹿さんを演じているところから始まり、「奥殿」でびしっとした本性を現す、という流れでした。
今回は「奥殿」だけの上演なので、いきなりびしっとした大蔵卿から始まります。イヤホンガイドがなかったら「あれ?この人、お馬鹿キャラを演じてる人じゃなかった?」と混乱していたかも。導入は欲しかったなあ、というのが正直なところ。まぁそこも含めて歌舞伎なんだけど。
とはいえ染五郎さんの演じ分けは見事で、まだお若いのに・・・とびっくり。初役だそうです。ちなみに幸四郎さんは八剣勘解由役で登場していました。
染五郎さん、生首抱えてお馬鹿なふりするのは最高にサイコパスでした🤣
ご飯難民とめでたい焼き
実はこの日、台風の影響でそもそも公演に行けるかどうかわからず、予約していた吉兆も花篭も早めにキャンセルしていました。結果、無事に観劇はできたけれど、ご飯難民に。
開場後にお食事予約をしても良かったのだけど、今回は「食べない!」という謎の潔さを発揮。
その潔さも空腹にはもちろん勝てず、幕間には場外の地下お弁当売り場に。いつもの混雑が嘘のように空いている代わりに、人気のお弁当はやはり売り切れ。食べたかった天むすもなし😭というわけで、夜ご飯は結果的にはパスすることになりましたが、空腹すぎてめでたい焼きを購入🐟花道と定式幕を眺めながら食べる鯛焼きは、いつもいつでも最高です。

まとめ

終演後、ライトアップされた歌舞伎座を見上げて、やはり素敵だなあとしみじみ。
揚げ幕の音にぞくっとして、所作台が運ばれていくのを眺めて、仁左衛門さんの涙にオペラグラスを離せなくなった夜の部でした。今度から、所作台のありなしは気にしていきたいと思います🥸

