東博能『船弁慶 後之出留之伝』(2026年6月)

東博能『船弁慶 後之出留之伝』(2026年6月) 能楽

博物館の中で観る能、しかも正面最前列。重要文化財の能面が、目の前で静御前になり、知盛の亡霊になるという、なんとも贅沢な一日。やはり今日も最高でした。

東博能ってなに?

「東博能(とうはくのう)」は、東京国立博物館の本館1階に特設の能舞台を組んで行われた、東京国立博物館と宝生会の共催公演です。会期は2026年4月17日から6月7日までで、同時期に開催されていた特別展「百万石!加賀前田家」とあわせての企画だそう。加賀前田家は江戸時代からシテ方宝生流を大切に庇護してきた、という歴史的なつながりがあるというのもイベントのきっかけだったのかな・・・

わたしが拝見したのは最終日の「生きる国宝」という特別公演。宝生会が所蔵する重要文化財の能面を、展示ケースの中ではなく、実際に舞台で使うという公演です。能面は古いものでは室町時代の作が、いまも現役の道具として舞台に立っているとのこと。博物館で「生きている文化財」を観る、なんとも東博能らしい一日でした。

会場のまわりには刀剣乱舞とのコラボパネルもあって、こちらはこちらで眼福。膝丸、一時期めっちゃ育ててたわ(笑)

刀剣乱舞とのコラボパネル
刀剣乱舞とのコラボパネル

整理番号にドキドキ、からの正面最前列

チケットは自由席で、当日は整理番号付き。自由席ってどこになるかわからないから、直前までドキドキするんですけど、受付でひいた番号見たらなんと10番台!「これはすごく前の方かな??」と期待しつつ、入場がどういう順番かわからなかったので相変わらず不安を抱えたまま本館をぐるぐるぐるぐる・・・そして集合時間に会場前に。

行ってみたら、すでに次の番号の方が並んでいて、スタッフの方に「その方の前にお並びください」と案内され・・・あれ?もしかして番号順に入るのかな?と思っていたら、やはりそのようで(笑)
ということで、指定席ではなかなか取ることがない正面の最前列へ!!脇正面でもいいや〜とか後ろでもいいや〜とか諦めモードでしたが、「せっかくだし、もう二度とこんな機会こないぞ!」と思い切りました。結果、舞台にどっぷりと浸かることができたすんばらしいお席でした。最高。

『船弁慶』、節木増の表情に見入る

演目は『船弁慶 後之出留之伝(のちのでとめのでん)』。義経一行が西国へ船出する前半では静御前との別れが、後半では海上に平知盛の亡霊が現れる、前後でがらりと表情の変わる曲です。

金屏風の特設能舞台
金屏風の特設能舞台

前シテの静御前がかけていたのは、重要文化財の「節木増(ふしきぞう)」。江戸初期の能面だそうです。しかもこれ、あとから写しがたくさんつくられた「本面(ほんめん)」、つまり大もとの面なんだとか。最前列だからこそ、角度によってふっと変わる表情がよく見えて、おもしろくて見入ってしまいました。このあと対談で「写し」の話を聞くことになるんですが、その大もとをいちばん近くで見ていたと後から知って、じわっときたのでした。

そして子方の義経。お声がとても透き通っていて、館内に響くたびにはっとさせられるわけですよ。途中でこっくりしかけていたのもご愛嬌(笑)

囃子の音も、博物館の建物ならではの響き方。大鼓と小鼓の音が天井の高い空間に抜けていく感じは、能楽堂とはまた違う迫力でした。

対談:美術品としての能面、道具としての能面

終演後は、宝生流宗家の宝生和英さんと、東博の浅見龍介副館長の対談。これが今回いちばん心に残った時間かもしれません。

おもしろかったのは、お二人が同じ能面について話しているのに、切り口が全然違うこと。美術品として守り研究する立場と、道具として使う立場。お互いがお互いの立場や見方を尊重しながら、それぞれの言葉で能面を語っていて、博物館の中に能舞台を建てたこの企画そのものが、ふたつの立場の交差点なんだなぁと感じました。同じ一つのものについて話しているのに、立場が違うだけでこんなにも違うのかと・・・

「美術品は古いほど価値が上がるところがあるけれど、能面は古ければいいというわけでもない」という話もとても印象的でした。古い面でも表情が強くかたまっているものは、かえって扱いづらいことがあるそうです。能面の世界には「写し」といって、手本となる面を忠実に写すという文化があり、優れた写しは堂々と舞台に立つのだそう。古いからえらいわけじゃないし、古いから価値があるというわけでもない。写しだからと言って模造品とは違うし、ただのコピーでもない。この日はこのあと、別の展示室でも同じことを思うことになるのですが、それはまた別の記事で。

おまけ:上野の足元

帰り道、足元にポケモンのマンホールと桜のマンホールを発見。たまには下を向いて歩いた方がいいこともある。ポケモンのマンホールってほんとかわいい!

まとめ

パンフレット「東博能 船弁慶」
パンフレット「東博能 船弁慶」

博物館で能を観る。展示ケース越しではなく、能面が人の顔の上で生きて動くのを、最前列で堪能しました。「生きる国宝」という公演名のとおり、すばらしい体験となりました。

同じ日に出会った根付のお話はこちら → 根付 高円宮コレクション(2026年6月)

東博能 生きる国宝『船弁慶 後之出留之伝』 公演情報
公演名東博能 生きる国宝『船弁慶 後之出留之伝』
公演期間2026年4月17日(金)〜6月7日(日) ※『船弁慶』公演は最終日の6月7日(日)
劇場東京国立博物館 本館 特設能舞台(東京・上野)
開演時間12:45(終演15:10)
出演シテ 宝生和英(宝生流宗家) / 子方 寶生知永 ほか
主催東京国立博物館、宝生会
ひとり観劇メモ博物館の特設舞台での公演。ひとりなら展示鑑賞とセットで楽しむのもおすすめです。
公式サイト東京国立博物館

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